中学三年生になった時から、大学を出て社会人三年目の春まで延々続いた「万年ダイエット生活」。せっかく取り戻してきた食欲を再び制限するほうへ舞い戻ったのは、そもそも中三になってからようやく私の体が、それまで延期させられていた月経やら胸幅、腰幅といった部分を、大人の女性の状態へ持っていくための突貫工事に取りかかったのを、「また太りだした」と曲解したのが始まりでした。どうやら、中二の時に食べる量を増やしても逆にヤセられたのは、タテに背丈が伸びる成長のほうへエネルギーが使われたからに過ぎないんじやないか、と私は考えたのです。実際、成長期には大食いしてもあまり太らないというのは、その時期に分泌量の多くなる「成長ホルモン」が、体内の脂肪を分解する働きをも併せ持っているからなんですね。それにともかく、人生の途中で急に小柄化してしまったことは、私にとっては手痛い打撃でした。何しろ、これじゃ人と同じ量を食べても太りやすいんじゃないか、と思ったわけです。「基礎代謝量」という言葉をご存知ですか?人が何もせず寝ている安静状態であっても消費する、生命維持のために必要な一日当たりのカロリー量なのですが、これが「より大柄で・筋肉量の多い・男性」であるほうが、「より小柄で・筋肉量の少ない・女性」よりも数百キロカロリー単位で多くなるというシロモノなのです。この点の不利をカバーするためには、一人前より少なく食べなきやダメだ、と私は悲壮な思いで信じました。そこで同級生たちが暴露し合う。夜食にあたしはロールケーキ一本。あらあたしは食パンを平らげちゃったというような、食べ盛りらしい武勇伝を尻目に、店屋物の一人前を少し残す程度の食事量を守り続けます。「あたしは、性欲が強い分、食欲が薄いのよ」などと友人たちには出まかせの言い訳をしながら。それでなくとも最初のダイエット生活の名残で、私にはまだ「食べてはいけない禁じ手食品」が色々とありました。市販のケーキのほか、フライや天ぷらのコロモブフーメン、トーストに塗るジャムやマーガリン、砂糖入りの清涼飲料、子供時代にご飯のお替わりの友だったお茶漬けのり、などなど十指じゃききません。加えて、中一のバスケ部、中二の体操教室通いの間に習慣となっていた、寝る前の腹筋運動と腕立て伏せを、十代の間は続けていました。ただし、もう体重計の数字そのものには、あまりこだわっていませんでした。というのも、同級生たちの身体測定結果の一覧表を眺めているうちに、体重と見た目の体型が必ずしも一致しないことに気づいたからです。同じかさなら脂肪より筋肉のほうが重たい、という事実は今ではよく知られていますが、体重という数字の中身は、その大の骨の太さや筋肉・脂肪の割合によって事情が違い、一律に一つの物差しで評価することはできません。だからこれからは体重でなく、もっぱら体周りのサイズを減らして見た目を引き締める、部分ヤセを目指そう、と頭を切り替えたわけです。だけどその当時、ファッション志向のダイエット本なんてものは、まず本屋では見当たりませんでした。過去に『ミコのカロリーブック』といった、タレント絡みのヒット本はあったものの一過性に終わり、本屋で扱っているのはあくまで、肥満・成人病対策用にお医者や栄養士が書いた「減量メニュー指導本」だったのです。今のダイエット本の先駆けのような「みるみるヤセる」だの「○週間で○?」の類を扱うのは、薬局の仕事でした。というのも、そのテの本は決まって、薬局で売られている高額な健康食品や機器を使うことが前提になっている、PR本だったからです。というわけで、私か次に中三で手を出したダイエットも、やはり通販で売られていた、また新手のアメリカからの輸入本でした。最初のダイエットが、期間もメニューも本人にお任せだったために拒食症につながった、という反省から試してみたのは、まずは{三週間限定}と短期集中型で、全メニューがカロリー計算のもとにきっちり組まれた「プログラムーグイェット」。続いて、のちの一九八〇年代以降に日本やヨーロッパで、次々バリエーションが登場しては流行が繰り返された「単品ダイエット」の類もいくつか試しました。ところが日頃食べ過ぎている人ならともかく、普段から少食にしている人間が、さらに食事を減らしても、その分ヤセるわけではなかったのです。もはや体重もサイズも、可笑しくなるほど変わりませんでしたから。次なる「ヤセる秘策」を探して、私の心は常にさまよっていました。一九七〇年代の日本では、ヤセるための方法といえば「甘い物やご飯を控えて、美容体操をする」のひと言で片がつくもので、そうした当たり前そうな事を言わずに「食事制限ナシで」「ラクに」「○週間で○?」といった魔術的な釣り文句を掲げてくる痩身商品は、まず良識ある大人は眉ツバと思って手を出しそうにないから、もっぱら通販でだけ売られていたのが実情でした。そうして片手で足りるほど数少ない、いつも同じ顔ぶれの美容通販会社の広告が、。裏的な香りを放ちつつ、少女マンガ誌や週刊誌の一角におとなしく収まっていたものです。それでも。単純に食べないだけではヤセられない体となってしまった私としては、その「食事制限ナシで」という言葉にガッチリ心をつかまれ、取るものも取りあえず取り寄せては、無料試用して返品、返せないタイプのものは買取り、ということを繰り返すのが生活の一部と化していきます。
[参考情報]
http://www.fkyu.info/entry02.html