シャネルがパリーモードを席巻した二〇世紀前半、彼女のつくりだしたファッションは、一九世紀的な「コケットリーの技法」を根本から覆して、そんなスタイルから女性を解放するものだった。シャネルは華やかなハイースタイルの否定者だったのである。ところが、現代の日本で「シャネルを着る」ことの意味は、まるで別のものになっている。そう、シャネルといえば、何よりゴージャスで高級感のあるフォーマルーウェアなのだ。作家の林真理子が愛用しているらしいシャネルがまさにこのイメージである。彼女は、あるエッセイで、シャネルのよさを次のように語っている。今年の春、ニューヨークへ出かけ、メトロポリタンーオペラーハウスでオペラを観ることになった。日本から何着かドレスを持ってきたのであるが、どうも劇場の雰囲気にそぐわない。大げさではないフォーマルな雰囲気があり、うんと素敵なもの、といったらシャネルだったのである。オペラの観劇にふさわしい品格があって「うんと素敵なもの」。現在、シャネルの服はまさにこうしたイメージをかもしだしている。とにかく、何かリッチな高級感と結びついているのだ。