第一次大戦下の好況が終り、戦後不況がおとずれ、さらに日本経済は歴史的な大不況に陥ってゆく。長びく不況の中で工業生産が低迷し、工場労働者の雇用需要が落込む中で、そうした労働移動がめっきり減り、労働者は職場を離れないようになった。統計的に見れば定着性が著しく高まりはじめたのである。こうした現象は、労働力の需給バランスが変化する時にはよく見られる現象である。需要が供給を上廻っている時は、売手市場だから労働者が強気になってより高賃金の職場を求めて転々と渡り歩く。逆に需要が減って供給超過になると買手市場になり、労働者はもし職を失うと他に仕事を見つけ難くなるから一か所に定着するようになる。こうした傾向は日本に限らず、どこの国でも、またいつの時代にも見られる現象である。しかし、日本の戦間期の変化の背景にはもうひとつの重要な質的変化が進行していた。それは、企業の労務管理体制がこの時期に大きな質的変化を遂げたのである。第一次大戦の頃までは日本の企業の労務管理体制はあまり整備されておらず、現場雇用管理は多くの場合、いわば現場をとりしきる親方まかせであった。経験を積んだ親方が仲間や配下の労働者を集めて仕事を請負ったり、あるいは現場の管理に采配をふるっており、企業は彼等をつうじて間接的に労務管理をするというのが多くの場合の実態だった。熟練労働者がより労働条件のよい職場を求めて渡り歩くというのもそうした労務管理の実態の中では当然の事だったのである。
(参考情報)
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